よくある質問
Q&A芸能人と依存症
この1ヶ月、芸能人と依存症の話題が世間を賑わせました。まず2018年4月25日、TOKIOの山口達也さんが「アルコール依存症」であることを告白されました。未成年女性への強制わいせつ罪という形で明らかになりましたが、これまでも問題行動を生じ、入院歴があったといいます。今回の事件はいわゆる「病的酩酊」という飲酒下における健忘を残す異常行動であるのかどうか定かではありませんが、アルコールが何らかの誘因になっていたことは間違いありません。
ここで「アルコール依存症」の診断基準をご紹介しましょう。WHO(世界保健機関)は過去1年間に次の6項目中3項目以上に当てはまる場合に、アルコール依存症と定めました。
1. お酒を飲めない状況でも強い飲酒欲求を感じたことがある。
2. 自分の意思に反して、お酒を飲み始め、予定より長い時間飲み続けたことがある。あるいは予定よりたくさん飲んでしまったことがある。
3. お酒の飲む量を減らしたり、やめたりするとき、手が震える、汗をかく、眠れない、不安になるなどの症状がでたことがある。
4. 飲酒を続けることで、お酒に強くなった、あるいは、高揚感を得るのに必要なお酒の量が増えた。
5. 飲酒のために仕事、付き合い、趣味、スポーツなどの大切なことをあきらめたり、大幅に減らしたりした。
6. お酒の飲みすぎによる身体や心の病気がありながら、また、それがお酒の飲みすぎのせいだと知りながら、それでもお酒を飲み続けた。
断酒するには、かつては根性論ばかりがまかり通っていましが、現在は画期的な新薬が登場しました。「レグテクト」です。作用機序ははっきりと分かっていません。脳内には依存症の形成に関係する報酬系と呼ばれる神経回路があります。レグテクトはそのような神経伝達物質の一つであるグルタミン酸受容体であるNMDA受容体の働きを阻害することにより飲酒欲求をコントロールしているのではないかと考えられています。
もちろん、薬の前提として、心理社会的治療も欠かせません。本人が治療意欲を抱かなくては始まりませんし、ご家族をはじめ周囲の方々の協力のもと、AAや断酒会といった自助グループへ参加されることが、断酒を続けるためには不可欠と言っても過言ではありません。
アルコール依存症治療ナビ.jpより
一方、2018年5月16日、西城秀樹さんがお亡くなりになりなりました。二度の脳梗塞を患い、最期は心不全であったといいますが、若い頃はタバコを3箱以上を吸うヘビースモーカーだったといいます。これは現在でしたら医学的に「ニコチン依存症」と言えるでしょう。厚生労働省も保険適応で治療対象としています。
すぐ喫煙.jpより
それでは、アルコールと同様にニコチン依存症のスクリーニングテストをご紹介しましょう。TDS(Tobacco Dependence Screener)ニコチン依存度テストといいまして、全10問の質問で構成され、「はい」と答えると1点、「いいえ」と答えると0点、10問の点数の総計で依存度を判定する。5点以上が「ニコチン依存症」と診断されます。
1. 自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまうことがありましたか?
2. 禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか?
3. 禁煙や本数を減らそうとしたときに、タバコがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか?
4. 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、次のどれかがありましたか?(イライラ、神経質、落ちつかない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、食欲または体重増加)
5. 問4でうかがった症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか?
6. 重い病気にかかったときに、タバコはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか?
7. タバコのために自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか?
8. タバコのために自分に精神的問題(※)が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか?
9. 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか?
10. タバコが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか?
上記との通り、現在では厚生労働省が保険適応で治療対象としております。具体的には「チャンピックス」という薬が脳内のタバコの代わりにニコチン受容体に結合し、喫煙によるドパミン放出を減少させ、禁煙に導く訳です。
すぐ禁煙.jpより
いずれにおきましても、ストレスフルな芸能界におきまして、アルコールやニコチンに依存されてしまい、犯罪や生命を損なってしまわれた両者の方々に同情を禁じません。一精神科医としましては、適切なストレス対処方法や無理のない生き方などを語り合うことができていたらばと悔やむ次第です。