よくある質問
Q&A「睡眠負債」とは
「睡眠負債」。うまく言い表した名称ですね。NHKスペシャルによると、睡眠不足はその翌日のみで取り返せるものではなく、二日三日と累積してしまうそうです。その結果が下記の通り、認知機能の低下から身体疾患の発症にまで及びます。注意力や集中力の低下はもとより、シカゴ大学や東北大学の調査によると、乳癌や認知症の発病率へ1.5倍ほど関わっているというから睡眠不足は命とりです。なお、図の通り、6時間睡眠でも脳の働きは緩徐に低下していきます。世界中の統計によりますと、「7時間睡眠」が最も長寿と言われています。それ以上でも寿命は短くなるようです。理由は定かでありませんが、何らかの疾患を抱えている方は睡眠時間が長いことが統計に影響を与えているのではないかと考えられています。
ただし、「7時間睡眠」と言いましても、健康な方は布団に入ればすぐ眠れるでしょうが、不眠症やうつ病など精神疾患を患っている方は入眠するまでに30分以上かかることも少なくありません。従って、患者さんは「就寝時間」は8時間ほど用意しておくのがよいでしょう。
うつ病の患者さんの回復を測る最も簡単で、確実な目安が「朝の目覚め」です。「グッスリ眠れ、スッキリ起きられるかどうか」が回復の度合を表しています。うつ病の特徴的な症状に、中途覚醒・早朝覚醒、そして起床困難、朝方に強い抑うつ気分があります。このため、「朝の目覚め」の良し悪しがうつ病の「回復のバロメータ」となる訳です。
一方、武田薬品工業では下記の通り、生活習慣の乱れが体内時計の乱れを導き、果ては肥満・生活習慣病、そして心筋梗塞や脳卒中など、やはり命とりになると図示しています。
NHKスペシャルでは、睡眠を確保するために、とにかく「早く寝るように」と勧めていました。「早寝早起き」、分かってはているけれどできない、現代人ならではの悩みです。そこで。武田薬品では早寝早起きの前提である「体内時計を整える12ヶ条」を挙げています。1. 朝起きたらカーテンを開け、日光を取り入れましょう。
2. 休日の起床時刻は平日と2時間以上ずれないようにしましょう。
3. 1日の活動は朝食からはじめましょう。
4. 昼寝をするなら午後3時までの20-30分以内にしましょう。
5. 軽い運動習慣を身につけましょう。
6. お茶や珈琲は就寝4時間前までにしましょう。
7. 就寝2時間前までに食事を済ませましょう。
8. タバコは就寝1時間前までに止めましょう。
9. 就寝1-2時間前に、ぬるめのお風呂に入りましょう。
10. 部屋の照明は明る過ぎないようにしましょう。
11. 寝酒は止めましょう。
12. 就寝前のパソコン、テレビ、携帯電話、テレビゲームなどは止めましょう。
「早寝早起き」、何時に起きて何時に寝るのが良いでしょうか?それには睡眠のメカニズムを理解することが必要です。健康な人の睡眠のパターンは、「レム睡眠(浅い眠り、体の眠り)」と「ノンレム睡眠(深い眠り、脳の眠り)」を約90分(1.5時間)1周期として、一晩に何度か繰り返しています。寝入りばな約3時間(2周期)に深いノンレム睡眠がまとまって出現し、その後は少しずつ浅くなり、レム睡眠の時間が長くなってきます。深いノンレム睡眠が足りないと、睡眠時間は同じでも、脳の休息が不十分のため、ぐっすり眠った感じがしません。
「体内時計」とはいわば寝つき時計で、朝起きて、朝日を浴びると寝つき時計がセットされ、眠る時刻までの秒読みが始まります。朝日を浴びてから約16時間後に「メラトニン」が分泌されて、眠りにつくようにセットされています。就寝時刻により起床時刻が決まるのではなく、「起床時刻」により就寝時刻が決まるのです。体内時計を正確に保ち、規則正しい睡眠生活を維持するためには、決まった時刻に寝るより、決まった時刻に起きることを重視すべきです。寝つき時計を「朝の光」でセットする習慣が重要なのです。理想的には「日の出」に起きるべきでしょうが、学校や会社の始業時間との兼ね合いで決めましょう。なお、「睡眠負債」の逆「睡眠貯金」すなわち「寝だめ」というのは医学的には存在しません。疲れがとれるかどうかは睡眠の質(深い睡眠)にかかわることで、長く眠るほど効果があるというわけでもありません。むしろそういった習慣は体内時計のリズムを乱してしまいます。休日も決まった時刻に起きて朝の光を浴びることが大事です。ただし、午前1-3時いわゆる「草木も眠る丑三つ時」にノンレム睡眠を摂ることが最低限、必要であることが分かっております。
そのためには、「早寝早起き」、「体内時計を整える12ヵ条」を常に心がける必要があります。しかし、24時間、働くことが当たり前のようになった現代社会、どうしても夜更かしをしてしまったり、夜勤に携わったりして、体内時計が狂ってしまうことがあります。私たち医療者もまさにその典型例で、夜間・当直業務に就くと翌日は頭も体もだるくて仕方ありません。最近は翌日・昼間の業務を免除してくれる病院もあるそうですが、10-20年前までは24-36時間連続で診療ということもよくありました。そこで、やむを得ない形でありますが、体内時計を整える物質であるメラトニンを「薬」として摂取する方法もあります。武田薬品工業による「ロゼレム」です。これは従来の睡眠薬と異なり、脳内のメラトニン受容体へ作用し、睡眠を促進させます。睡眠薬ではありますが、とても自然な眠りを得られます。従来の睡眠薬というのは、「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれるタイプのもので、脳内のGABA受容体へ作用し、脳機能を抑制することにより入眠させます。よく眠れるのですが、健忘や転倒、依存や耐性などの副作用を生じるため、特に「超短時間作用型」はできる限り使用を控えるよう、注意喚起されているところです。以上、睡眠についてNHKスペシャルと武田薬品工業の情報をもとにご説明しました。「早寝早起き」して「7時間睡眠」を確保する、これが長生きする秘訣です。まだ若い方でしたら、生産的な仕事をする基本でしょう。いわゆる自己啓発書を読むと、偉人・賢人と言われた人々は決まって、朝型の生活を送り、前向きに考え、積極的に行動しています。そして、得られた成果や報酬は他者と分かち合い、世のため人のために働き続ける、という「利他の心」を信条としているものです。