よくある質問
Q&Aなぜ芸能界で薬物事件が続くのか
やまない芸能界・薬物汚染
浮き沈みの激しさ…精神的不安が動機産経ニュース 2009.8.11 他より
芸能界の薬物禍が止まらない。自宅に覚醒(かくせい)剤を隠し持っていたとして、覚せい剤取締法違反容疑(所持)で逮捕された女優の酒井法子容疑者のほか、MDMA(合成麻薬)を使用したとして、麻薬取締法違反容疑(使用)で俳優の押尾学容疑者も逮捕された。華やかな世界に見えるが、絶頂と孤独が同居し、天国と地獄の落差は激しい。芸能人が、次々と違法な薬物に手を染めるのはなぜか-。
今年だけでも、薬物をめぐって逮捕された芸能人は、元タレントの小向美奈子さん(1月)▽元「はっぴぃえんど」ギタリストの鈴木茂さん(2月)▽俳優、中村雅俊さんの長男、俊太さん(4月)-と少なくない。
さらにさかのぼれば、平成13年にはタレントのいしだ壱成さんや田代まさしさん、18年に「ドリームズ・カム・トゥルー」の元メンバー、西川隆宏さん、20年には俳優の加勢大周さんらも薬物に手を染めた。
警視庁の捜査関係者は「芸能人が多く出入りする六本木などの繁華街では、薬物の密売が行われることが多い。暴力団とのつながりをうわさされる芸能事務所も多く、一般人より薬物が手に入りやすい環境にあることは間違いない」と指摘する。
また、「芸能人はお金を持っているので、覚醒剤など価格が高い薬物にも手が届く。浮き沈みの激しい業界ゆえか、精神的に不安定で、それが薬物に手を出す動機になっていた芸能人もいた」と振り返る。
酒井容疑者は平成10年、覚せい剤取締法違反容疑(所持)で逮捕された自称・プロサーファー、高相祐一容疑者(41)と結婚し、翌年長男を出産。復帰後はCMなどで母親や家庭人の優しいイメージを保ってきたが、家庭内での不仲説や別居もささやかれていた。
押尾容疑者も、19年に女優の矢田亜希子さん(30)と結婚、1児の父となるが、最近は矢田さんと別居状態と伝えられ、その後離婚、ここ数年はメディアへの露出も減っていた。いずれも、「表と裏」のギャップに苦しんでいたようにもみえる。
ここ連日残念なニュースが報道されています。子供や若者が憧れていた方々が違法薬物を使用し、逮捕されています。覚醒剤とは、狭義には覚醒剤取締法に規定されている薬物で、アンフェタミンやメタアンフェタミン(ヒロポン)という薬物が相当します。広義には脳に作用する中枢神経刺激薬、全般を指すとも言われています。メチルフェニデート(リタリン)、コカイン、MDMA、更には、ニコチン、アルコール、カフェインを含めることもあるようです。
共通する薬理は脳内のドパミン神経系への作用で、多幸感や爽快感などを生じます。薬物により作用の強度および中毒性や依存性が異なります。アンフェタミンやメタアンフェタミンを多用・連用すると、精神運動興奮、幻覚・妄想などの精神病症状(いわゆる覚醒剤精神病)が生じたり、動悸や発汗など交感神経刺激症状をはじめ、循環器・脳血管障害を引き起こすこともあります。
従って、心身へ影響する程度が問題であり、煙草やお酒、珈琲なども広義の覚醒剤ながら、深刻な副作用を呈さないため合法とされているわけです。もっとも精神医療の現場においては、ニコチン・アルコール・カフェインも精神作用物質の一つとして、過剰・有害使用が認められる場合は、「治療」による減量または中止を勧告しております。
しかし誰もがこのような薬物の依存症・中毒症になるわけではありません。お酒や珈琲をたしなむ程度の方もいれば、健康を害するまで飲んでしまう方もいます。その違いは神経学的に考察すると、上記のドパミンに対する親和性にあると言えるかもしれません。ドパミンが報酬系や新規性探求に関わる神経伝達物質と言われるよう、刺激や興奮を求めやすい方が覚醒剤を求めやすいと考えられます。平凡な生活や小さな幸せに満足できず、非日常の出来事や強い快感を求める方が依存症になりやすいとも言えるわけです。実際、診療においても薬物依存症の方は、派手な服装や強い香水、大袈裟な発言などを認めることが少なくありません。自分を実際以上に見せようとする誇大的・顕示型の性格傾向とも言えます。
ドパミン神経系:中脳腹側被蓋野→側座核などへ投射する
一方、そのような性格傾向の方は元来の遺伝的な素因もさることながら、幼少期に薄幸な家庭に育った方が多いと言われています。両親が幼い時に離婚していたり、父親が酒乱・暴君だったり、母親に過剰な愛情(束縛)を受けていたりした話をよくうかがいます。いわゆる機能不全家族といわれる家庭です。
酒井法子容疑者は両親が2歳時に離婚。母はその2年後に死去。同容疑者は芸能界入り後、実母について公にすることもなく、「記憶がない」とだけ話している。小学校時代は福岡市と、父の妹が住む狭山市を数年ごとに行き来した。狭山市の小学校に通う時は親せきの姓を名乗った。小学校期間中に、父は2度目の結婚をした。
小学校卒業後、父の3度目の結婚を機に福岡市に戻り、父、継母と同居した。14歳時にスカウトされて上京。所属事務所社長宅に住み込んだ。関係者は「そのころ父親が足を洗ったと聞いています」と話しており、父は暴力団関係の仕事から離れ、継母の兄の紹介で山梨に移り住んだとみられる。父は同容疑者が活躍し始めた直後の18歳の時に交通事故で死去した。記事:日刊スポーツ 2009.8.21 より
写真:産経ニュース 2009.9.19 より
このような環境で育ち、思春期や青年期以降も「生きづらさ」を感じている方々はアダルト・チルドレンと呼ばれます。これらはもともともとアルコール依存症や摂食障害の自助グループで使用されていた福祉の用語で、精神医学的には情緒不安定性パーソナリティ障害が近似しています。
情緒不安定性パーソナリティ障害とは、感情の不安定さを主徴とし、結果を考慮せず、衝動的に行動するパーソナリティと説明されます(WHO-ICD)。暴力や攻撃的な言動をするタイプ(衝動型)と空虚感や孤独感から不安定な対人関係や自殺・自傷行為を行うタイプ(境界型)とに分類されます。いずれも衝動性と自己制御の困難を認めます。また上記のように、空虚感や孤独感を代償するかのごとく、誇大的・顕示型の言動を生じることもあります。大袈裟な言動をすることで周囲の注目を集めたり、不適切な異性関係な繰り返したり、自分の利益のために他人を利用したりします。このようなタイプは演技性や自己愛性のパーソナリティ障害(APA-DSM)に相当します。
演技性や自己愛性と呼ばれるパーソナリティの「傾向」は職業として人目を引き、人並み外れた活躍を期待される芸能人や政治家の方などにしばしば見受けられます。人気や業績を上げ、脚光を浴びている間は問題が目立ちませんが、加齢や不祥事などから低迷すると、酒や煙草、薬に頼るようになるわけです。なお「障害」と医学的な診断をするには、本人が苦痛を覚えたり、社会適応の困難な状態が持続している場合に限定されます。
最も有名な例としてマリリン・モンローさんが挙げられます。「アメリカのセックスシンボル」として世界中の注目を集めましたが、36歳で亡くなりました。バルビツール系睡眠薬(現在日本ではあまり処方されない)の大量服薬でした。30代になってから、情緒不安定が著しくなり、精神科病院への入院を繰り返しました。父親は不明、母親が精神病で養育不能。このため幼少期は孤児院で過ごしたり、里親から虐待されたりしたことがあったそうです。16歳で初婚、20歳で離婚。25歳でメジャーデビュー以後は、有名野球選手や劇作家との結婚・離婚。後にケネディ大統領との不倫関係も明らかになりました。幼少期のトラウマから「見捨てられ不安」が強く、それがセックスアピールとなり女優としての大活躍につながりましたが、プライベートでの異性関係の不安定さをもたらしたと考えられています。
では、パーソナリティ障害と診断されるほど、本人が苦痛を生じたり、周囲を混乱させてしまう方が回復するにはどうすればよいでしょう。自傷行為を行ったり、違法薬物を乱用したりすることなく、つつがない穏やかな生活を送るにはどうすればよいのでしょう。それにはまず、自分を冷静に見つめることです。自分の良い点も悪い点も平等に観察し、正当な評価を行います。認知行動療法では「セルフモニタリング」といいます。問題点は紙に書き出したり、信頼できる人に相談したりして、日々改善に努めます。そして、お手本となる人を「ロールモデル」とし、「ロールプレイ」を繰り返すと良いでしょう。できれば、家族や友人に協力していただき、「フィードバック」を受けるとベターです。悪い点ばかりでなく、良くなった点も積極的に褒めていただき、「セルフエスティーム」を高めていけるとベストです。
セルフエスティーム・自己評価は高すぎても低すぎてもいけません。高すぎる自己評価は誇大性を生じ、周囲と軋轢を起こしますし、低すぎる自己評価は不安や抑鬱を生じ、不全感や劣等感に悩まされます。華々しい活躍をされていた芸能人や政治家が、実は人知れず悩みを抱き続け、突然、手記や告白を発表したり、事件や事故に巻き込まれたりすることがあるのは、そのような問題を内在していたからでしょう。表面上は何事もないかのように笑顔で振る舞っていても、心の内ではずっと泣いていたわけです。感情をそのまま表に出すべきではありませんが、本当の気持ちを穏やかに表現することは精神的な健康を送る上で必要な行為です。そしてあるがままの自分を素直に受け入れ、背伸びをせず、卑屈にもならず、自然体で生きることが望まれます。問題を一人で抱えきれない時は臆せず周囲の方々や心の専門家に相談しましょう。