精神医学講義
Psychiatry
「精神医学講義」
– 患者さんへの特別講義 –
毎週土曜19時より
デイナイトケアプログラム
「医学」の専門用語
「精神科」の診察
「精神医学」について
「精神疾患」について
「病気」と「健康」
「障害」と「疾患」
「病気」と「性格」
「脳」「心」「体」
「心」「体」について
「不眠」「不安」
「うつ」「躁うつ」
「幻覚」「妄想」とは?
「うつ病」「躁うつ病」
「統合失調症」 とは?
「依存症」の種類(酒・煙草、賭博、恋愛…)と治療法とは?
「発達障害」「人格障害」とは?
「薬物」「心理」「社会」療法とは?
「寛解」「回復」「治癒」の違いは?
「再燃」「再発」とは?
「遺伝」「環境」の関係とは?
「治療」「予防」の方法は?
等々、「テーマ」は各回毎
「リクエスト」に応じます!
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「医学の専門用語 medical technical term」
診断 diagnosis
診察や検査を行い、そこで得られた諸情報を用い、医師などが、患者の健康状態や病気の状態を判断すること
症候群 syndrome
原因不明ながら共通の病態(自他覚症状・検査所見・画像所見など)を示す患者が多い場合に、そのような症状の集まりに「とりあえず」名をつけ、扱いやすくしたもの
症状 symptom
病気により患者の心身に現れる様々な個別の状態変化、あるいは正常からの変異
自覚症状 S. subjective:患者により主観的に感じられるもの
他覚症状 O. objective :周囲により客観的に認められたもの
徴候 sign
症状を生じている様子がが観察・検出されている状態
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「精神科の診察 medical examination of psychiatry」
医療面接 medical interview
主 訴:患者さんの受診理由、本人は困らず同伴者が困っている場合も少なくない
現病歴:発病してからの経過、本人と同伴者と異なる時、5W1H、図表化など
既往歴:精神・身体疾患の罹患歴・治療薬等、中高年では再燃・再発が多い
生活歴:生い立ち、教育・職業歴、家庭環境、病前性格など
家族歴:両親・同胞・子ども等の既往歴・生活歴など
身体所見 physical examination
精神科の診察においては原則として行いません、患者さんの身体に触れません、医師・患者関係において「言語」や「文字」を重要視するから、関係性に不均衡を生じるからです、ただし明らかに身体疾患により精神症状を生じていると考えられる場合は行います、ほか血液検査など。
検査所見 laboratory finding
Vital signs(脈拍、血圧、呼吸、体温)心理検査(CES-D, SASS, NEO-FFI, AQ, ASRS, SCT, WAIS・WISC等)
血液検査、頭部MRI、脳波(最近は神経内科にて) …
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「精神医学」とは
人間の精神現象、特に精神障害を扱う学問です。
人文科学(主観的評価)と自然科学(客観的評価)等から成立します。
日本精神神経学会
精神病理学・精神病跡学、生物学的精神医学・精神薬理学、社会精神医学・司法精神医学など
伝統的診断(外因・内因・心因)
操作的診断(ICD、DSM)
診察・問診/問診票・質問紙
構造化診察
Experience(経験) / Evidence(実証)
薬物療法(1950年代より)、電気けいれん療法、高照度光療法、デイナイトケア
身体科との相違
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「精神医療の歴史(世界)」
1377年:Bethlem Royal Hospital in England(世界最古)
1656年:Hôpital de la Salpêtrière en France
1793年:Philippe PinelがHôpital de la Salpêtrièreの閉鎖病棟において患者を鎖から解放しました。
1886年:Sigmund Freudが「自由連想」「精神分析」を創始。
1899年:Emil Kraepelin が「精神病」を「早発性痴呆」と「躁鬱病」に分類。
1911年:Eugen Bleuler が「早発性痴呆」を「精神分裂病」へ改名。
1853年:International Classification of Diseases, ICD / World Health Organization, WHO
1952年:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, DSM / American Psychiatric Association, APA
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「精神医療の歴史(日本)」
平安時代:皇女が「物狂い」となり「霊泉」を服用したという記録があります。
鎌倉時代:仏僧が「薬草」を与えたという記録があります。
江戸時代:「大雲寺信仰」、農家による生活支援「茶屋」
明治時代:「岩倉癲狂院」/「京都府癲狂院」
「東京府癲狂院」「東京府立巣鴨病院」「東京都立松沢病院」
1889年:「巣鴨病院」の改称に伴い「癲狂」は使用されなくなくなりました。
しかし精神病患者の多くが「私宅監置」「座敷牢」に収監されていました。
1918年:「わが邦くに十何万の精神病者は実にこの病やまいを受けたるの不幸の他ほかに
この邦くにに生まれたるの不幸を重かさぬるものというべし」
呉秀三(東京帝国大学教授、松沢病院病院初代院長)
1950年代:精神科病院建設、CP発見・抗精神病薬ブーム(CP. Chlorpromazine )
1990年代:SSRI・精神科クリニックブーム
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「精神医学の未来」
光トポグラフィと磁気療法の過剰宣伝
遠隔診療と保険診療
遺伝子解析と倫理性
AI. Artificial Intelligenceを用いた精神科診断
ロボットによる代替治療
人間による精神療法・心理療法の重要性
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「病気」とは
「病む」とは、身体的・精神的・社会的に、どこか不健康であるというサインです。人々はこのサインを受け止め、日常生活を修正し、適切な治療を受ければ、早期に回復し「今まで以上に健康」な日常生活を手に入れることができます。
「病む」という体験は、これまでの身体的・精神的・社会的生活を振り返り、己の生き方、価値観、時間の使い方などを振り返って見直す機会となります(セルフケア不足看護理論)。
「病む」ことは、これまでと異なる「新しい人生」「自己成長」へのきっかけとなるのです。
「友とするにわろき者、七つあり。一つには、高くやんごとなき人。二つには、若き人。三つには、病なく身強き人。四つには、酒を好む人。五つには、猛く勇める兵。六つには、虚言する人。七つには、欲深き人」「よき友三つあり、一つには物くるゝ友、二つにはくすし、三つには知恵ある友」(徒然草)
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「病気」と「健康」とは
「未病」(伝統中国医学、中医)とは、明らかな症状も無く、検査でも明らかな異常がないけれど、少し調子の悪い状態、病気になる前段階、心身の微妙な変化を表しています。
「東洋医学」は医食同源、心身一如、自然治癒に基づき、生活習慣の改善を推奨しています。これにより「未病」は「病気」に至らずに済みます。
「健康とは、生きる目的ではなく、毎日の生活のための資源である」
“Health is, therefore, seen as a resource for everyday life, not the objective of living”
Ottawa Charter for Health Promotion (1986)”
「健康とは、身体的・精神的・霊的・社会的に、完全に良好な動的状態であり、単純に病気あるいは虚弱でないことではない」
“Health is a dynamic state of complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity (1999 WHO)”
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「障害」とは
「障害」は目標の達成や進行の妨害となること。
「障碍(しょうげ)」は仏教用語。「修行」の妨げとなる煩悩障、業障、生障、法障、所知障など。例えば「煩悩障」は、貪り、瞋り、癡かなど自身の煩悩が信心修行の妨げとなること。
「障害」は、1950年「身体障害者福祉法」「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」において「障害者」が用いられ、それまでの「不具者(ふぐしゃ)」「癈疾者(はいしつしゃ)」という用語から代ったことにより、差別・偏見など生じてきたようです。
“mental disorder(精神障害)”はICD/WHOによる定義、“disease”の方が重篤な感あり。
“sickness(軽い病気)”“illness(病気)”“disease(体内の異常により生命に関わる疾病)”
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「正常」と「異常」とは
「正常」「普通」「一般」「通常」「平凡」「凡庸」
「異常」「特別」「特殊」「特異」「奇異」
「出る杭は打たれる」「能有る鷹は爪を隠す」「大賢は愚なるが如し」「深い川は静かに流れる」
Intelligence Quotient, IQ は、同年齢の集団内における位置を基準とした標準得点としての「偏差知能指数(Deviation IQ, DIQ, 偏差値知能指数)」です。
中央値100、標準偏差15前後と定義されます。平均値100、85–115:約68%の人が収まり、70–130:約95%の人が収まります。
「正規分布」といい、データが平均値の付近に集積するような分布を表します。70以下と130以上が異常値とされます。
IQ の高さのみで「天才(創造性など)」とは言えません。
IQ のみ高い方は「秀才」と言われます。
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「天才」と「狂気」とは
「天才」とは、天性の才能、生まれつき備わった優れた才能(生まれつき優れた才能を備わった人物)のこと。努力では至らないレベルの才能を秘めた人物。
「天才とは1%の霊感(ないし閃き)と99%の努力」(エジソン)
「天才は狂気だ」(ロンブーソ、犯罪精神医学者)
「狂気」とは、常軌を逸脱した精神状態。
「創造とは、人が異質な情報群を組み合わせ統合して問題を解決し、社会あるいは個人レベルで、新しい価値を生むこと」
(高橋誠/日本創造学会・元会長・元理事長)
「認知的脱抑制」脳内における情報のフィルター機能の低下
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「性格」とは
性格:知・情・意/認知・情動・情動を総合した個人の特徴で、「個性」として表されます。
人格:性格と同義であるが、日本では「善悪」を含む場合あり、“Personality”とも代用。
気質:先天的な特性・傾向。
Big Five:神経症、外向性、開放性、調和性、誠実性
1960-1990年代に米国にて発展した性格分類法
当院ではNEO-FFIにて検査実施
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"Big Five"
性格特性は特定の言葉や行動と相関します
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「病前性格」と「病後変化」
分裂気質 :細長型 、静か、控えめ、真面目、(敏感性と鈍感性)
躁うつ気質:肥満型 、社交的、親切、温厚、(循環気質)
粘着気質 :闘士型(筋骨型)、几帳面、熱中・興奮、頑固 (Ernst Kretschmer)
人格障害:平均または価値基準より偏りが著しい者(後述)。
プラスの場合、天才や偉人も含まれます。
人格変化:主に統合失調症により、病前の人格が低下する。 抑制低下、洞察力低下、固執、平板化など。
加齢や認知症にては、病前の人格が先鋭化する。易怒性、頑固、猜疑心など。
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「躁うつ病の病前性格」
縦軸:エネルギー水準(躁的因子)
横軸:人格水準(年齢に応じた日常・社会生活への適応)
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「統合失調症の病前性格」
神経発達:発達の遅れ(胎生期)
運動機能:協調運動不全・神経学的障害(幼児期・小児期)
言語発達:運動・言語機能の遅延(幼児期・小児期)
行動特徴:ひとり遊び、自閉・孤立、不登校、留年・退学など、陰性症状行動(女子)、陽性症状行動(男子)
社会適応:全般性不安症、社会不安症(小児期・思春期)
精神症状:精神病症状の顕在化(青年期・成人期)
環境要因:母体感染症、産科合併症(胎生期)、母親の養育技能・不足、父親のアルコール依存など、いわゆる機能不全家庭(幼児期・小児期)
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「精神病質」
人格異常のうち、その異常性に自ら悩む者、または社会を悩ます者 (Schneider, k. 1923 )。
発揚型(気分高揚型):快活・現実的、世話好き・楽天家。
抑うつ型:絶えず面ぐるしい気分を抱き、人生を悩んでいる者。
自信欠乏型:小心で、身体・社会的に自信なく、不全感が強い。
過信型(熱中型):理念に関する優格観念に支配され、のめり込み、貫徹しようとする。
顕示型:自分を実際以上に見せかける者。
気分変動型:不意にイライラしたり落ち込んだりする者。
爆発型:些細な原因から興奮、激しやすい短気な者。
情性欠如型:同情、後悔、良心、恥、道徳心のないハードボイルド。
意志欠如型:すぐに影響され、誘惑されやすい者。
無力型:記銘力・集中力低下に悩み、離人症を訴える者。
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「パーソナリティ障害」
A群、奇異型 (odd type)
妄想性(猜疑心)、統合失調質(孤立的)、統合失調型(風変わり)
風変わりで自閉的で妄想を持ちやすく奇異で閉じこもりがちな性質を持ちます。
B群、劇場型 (dramatic type)
反社会性(非行、犯罪)、境界性(後述)、演技性(自己顕示)、自己愛性(特権意識)
感情の混乱が激しく演技的で情緒的なのが特徴的。ストレスに対し脆弱で、他人を巻き込む ことが多いです。
C群、不安型 (anxious type)
回避性(社会不安)、依存性、強迫性(完璧主義)
不安や恐怖心が強い性質を持ちます。周りの評価が気になり、それがストレスになります。
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「いわゆる「境界例」とは」
20世紀初頭より「精神病」と「神経症」の中間に位置づけられる疾患群と認知されました。
DSM-Ⅲ(1980年)より「統合失調型人格障害」と「境界性人格障害」へ分類されました。
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「境界性パーソナリティ障害」
全般的な気分、対人関係、自己像の不安定さ、著しい衝動性のパターンで、成人期早期に始まり、種々の状況で明らかになる。
境界性パーソナリティ障害の診断基準項目(比較的疾患特異的な精神症状)は9項目あり、そのうちの5が満たされると診断を考慮する。
1. 実際のまたは想像上の見捨てられる体験を避けようとする懸命の努力。但し、5.の自殺、自傷行為を含めないこと。
2. 過剰な理想化と過小評価との両極端を揺れ動く特徴をもつ不安定で激しい対人関係の様式。
3. 同一性障害:著明で持続的な自己像や自己感覚の不安定さ。
4. 衝動性によって自己を傷つける可能性のある領域の少なくとも2つにわたるもの。
例えば、浪費、セックス、薬物常用、万引、無謀な運転、過食。但し、5.に示される自殺行為や自傷行為を含まない。
5. 自殺の脅かし、そぶり、行動、または自傷行為の繰り返し。
6. 著明な感情的反応性による感情的な不安定さ (例えば、一過性の強烈な気分変調性障害、焦燥感や不安、通常2-3時間続くが、2-3日以上続くことは稀)。
7. 慢性的な空虚感、退屈。
8. 不適切で激しい怒り、または怒りの制御ができないこと (例えば、しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、喧嘩を繰り返す)。
9. 一過性の,ストレスに関連した妄想的念慮,もしくは重症の解離症状。
対人関係の障害(対人関係が不安定で自己同一性が不確定)
行動コントロールの障害(衝動的行動が多いこと)
感情コントロールの障害(感情不安定で怒りが強いこと)
の3種に分類されるという見解が示されている。
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「サイコパス」
フランスのPinelは「怒り発作」などの異常行動を繰り返す「妄想なき狂気」(1801)を記述しました。
イギリスではPrichardが「背徳症候群」(1853)を提示しました(「背徳」とは、品位と作法に適った振る舞いでないという意味)。これは自己制御障害や行動異常に着目し「社会病質sociopath」に通じました。
19世紀後半になると遺伝的特徴や体質的異常ゆえとするベルギーのMorelやフランスのMaganによる「変質論」へと展開されました。
そして、イタリアのLombrosoは「生来性犯罪者説」を提唱しました。
「サイコパス psychopath」はこれまで「精神病質人格(Schneider,K.1923)」「人格異常の中で、その異常性に悩むか、社会を悩ますもの」と混同されてきました。
しかし、Robert Hare (1980) の実証的研究により一新されました。「良心の呵責を覚えず、感情に奥行ないため、他人を思いやることができない。利己的で、自分の利益を優先にする。周囲の人々と長期的に友好な関係を築けず、結果的に集団や社会から排除されることが多い」と定義されています。
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“Dark Triad”
「悪の気質」犯罪や社会的な苦痛を生じ、組織に重大な問題を引き起こす恐れある
Narcissism
誇大性、自尊心、利己的、共感の欠如
Psychopathy
継続的な反社会的行動、衝動性、利己主義、無反省
Machiavellianism
対人操作、搾取、道徳観に対する冷笑的無視、自己中心や欺瞞
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「発達障害・人格障害・精神障害」
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「精神疾患と行動特徴」
「人格障害」
「嘘」について
他人へ嘘をつくことが習慣になっている
「秘密」について
秘密の大切さを知らない、他人の秘密に土足で入る
「解決」しにくい「葛藤」について
自分に葛藤はないと盲信している、他人を動かし、暴力的な解決を試みる
「内面」と「外面」
自分の内面を変えない、変えようとしない、逆に外界を変え、他人を困らせる
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「脳」・「心」・「体」
心身相関:心理ストレスが身体へ影響を与え、様々な反応が生じる現象。
心身一如:漢方医学では、身体的機能のみでなく、精神的機能も「五臓:肝心脾肺腎」がコントロールしているという立場をとります、例えば「病は気から」。
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「心」・「体」
ただしアントニオ・ダマシオらは「脳だけで説明しようとする理論は不十分なであり、脳に加え、体も含めたダイナミックな『心』という現象を作り出しているとすべきだ」と指摘しました。ダマシオらは「ソマティック・マーカー somatic marker 身体信号仮説」を提唱しました。すなわち意思決定において情動的な身体反応が重要な信号を提供するという仮説です。
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「脳の機能局在と低下予防」
大脳皮質は細胞構築の差により、52領域に細分類され、それぞれ異なった機能を担っている。
1. 睡眠:平均7-8時間
2. 食事:和食・地中海食
3. 運動:1回30分×週2回
✖喫煙、肥満、大量飲酒
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「心身症」
身体疾患において、発症や経過に心理・社会的なストレスの影響で機能的・器質的な障害を伴った疾患です。心理・社会的なストレスに無自覚・無頓着な場合に発症・悪化することが多く一般治療では改善困難です。
代表例として、本態性高血圧、頭痛(筋緊張型頭痛、片頭痛など)、過敏性腸症候群、機能性ディスペプシア、アトピー性皮膚炎、疼痛性障害などがあります。
うつ病・躁うつ病や統合失調症は明らかな精神疾患であり、心身症とは定義されません。うつ病の身体症状として頭痛や下痢を伴うことはあります。
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「頭痛の種類と対処方法」
頭痛はうつ状態において、頻繁に生じる症状です。慣れない方は、脳の病気かと心配され、頭部MRI撮影されたり、頭痛専門外来へ通われたり、しますが、うつ状態の頭痛は、うつ状態の改善が最も有効です。しかし頭痛は耐え難い症状ですから、生じた時の対処方法をご紹介しましょう。
緊張性頭痛:心身の緊張から、締め付けられるように痛む、首肩こりを伴う
→ 1-2時間おきの休息、ストレッチ体操、散歩など
→ チザニジン(筋弛緩薬)
偏頭痛 :片側(こめかみ)がズキズキと拍動性に痛む、眩暈・吐気、光・音刺激を伴う
→ 十分な睡眠、低気圧の予測、赤ワイン・チーズ・チョコレートを避ける
→ 予防薬(抗てんかん薬)・鎮痛薬(トリプタンなど)
群発頭痛 :稀ですが、金槌で殴られたような激しく痛む
→ 禁煙・禁酒、規則正しい生活
→ 薬物は偏頭痛に準ずる
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「咽喉神経症」
「咽喉がつかえる」「締めつけられる」「何かできている」など、様々な言葉で表わされる咽喉の違和感、異常感覚を生じるけれど、器質的な異常はない。咽喉の過敏性、癌への不安、うつ病など心因性と考えられています。
漢方には「梅核気(ばいかくき)」「咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)」と呼ばれている病態があります。昨今ではヒステリー球とも言いますが、これらは「気が上逆して咽喉を塞いでしまう病」で、まさに現代の「咽喉神経症」と考えられます。
「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」は、「気」を巡らせる「理気剤(りきざい)」の一つで、うつを改善させたり、不安を和らげたりする働きがあるとされています。
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「心臓神経症」
「動悸」「胸痛」「胸部圧迫感」など生じますが、心電図やエコーなど検査しても、心臓自体には問題ないありません。背景には、不安神経症、うつ病など心因性が考えらえます。「過呼吸症候群」を伴うと「パニック障害」と診断されることが多いです。
比較的、女性に多いです。
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「過換気症候群」
急に息を吸いにくくなり、胸が苦しくなり、様々な症状を生じます。比較的、若い女性に多く、几帳面や心配性な性格の人に多いとも言われています。
ヒトは急に息が吸いにくくなり、息苦しくなると、不安になり、浅く速い呼吸になります。その結果、体内の二酸化炭素が減り過ぎ、血液がアルカリ性になり、様々な症状が出てくるのです。症状が出てくると、益々不安が強くなって、浅く速い呼吸を続けるといった「悪循環」に陥いるのです。
治療的な対処法として、意識的に呼吸を遅くする、あるいは呼吸を止めることで改善します。患者さんは不安が強くなかなか呼吸を遅くすることができませんので、まずは患者さんをできるだけ安心させ、ゆっくり呼吸するよう誘導することです。
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「機能性ディスペプシア」
機能性ディスペプシア Functional Dyspepsia(FD)とは、原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患。健診受診者のうち11-17%、病院受診者のうち44-53%。
脳と胃腸は密接に関連しており、これを「脳腸相関」と呼びます。不安うつ症状により、胃腸の運動不全を生じることが頻繁にあります。
予防方法は、暴飲暴食しない、脂物や刺激物は控える、十分な食休み、十分な睡眠・休養など。
改善しない場合は、不安うつ症状の改善が第一ですが、即効性を期待する場合、
モサプリド(女性)、スルピリド(男性)など効果的です。
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「過敏性腸症候群」
3ヵ月間、3日以上/月、腹痛や不快感 が繰り返し起こり、下記の2項目以上の特徴を示す
1)排便によって症状がやわらぐ
2)症状とともに排便の回数が変わる(増えたり減ったりする)
3)症状とともに便の形状(外観)が変わる(柔らかくなったり硬くなったりする)
便秘型:セロトニン4受容体刺激薬 という腸の動きを活発にする薬を使用します。
下痢型:ロペラミド塩酸塩 など止痢薬を用います。
漢方薬:腹痛・桂枝加芍薬湯、便秘・大建中湯 が広く用いられています。
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「脳腸相関 Brain Gut Interaction」
消化管の情報は「迷走神経」を介し、大脳へ伝わり、腹痛・不快感、抑うつ・不安などの情動変化も引き起こします。この情動変化が、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF: Corticotrophin Releasing Factor)などを介し、消化管へ伝達され、消化管の運動異常を悪化させるのです。
例えば、「過敏性腸症候群」はストレスにより誘発されたCRFは視床下部や脳幹にあるCRF type 2受容体を介し、胃・十二指腸の運動を抑制し、CRFはCRF type 1受容体を介し、結腸運動を亢進します。
消化管内腔の粘膜細胞に刺激が加わると、「迷走神経」などを介し、延髄・視床・大脳皮質へと伝達され、「内臓知覚」を形成します。
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「腸内フローラ」
善玉菌:悪玉菌の侵入や増殖を防いだり、腸の運動を促したり、ヒトの体に有用な働きをする菌
悪玉菌:腸内の中を腐らせたり有毒物質を作る菌
日和見菌:善玉とも悪玉ともいえず、体調が崩れたとき悪玉菌として働く菌
1. 病原体の侵入を防ぎ排除
2. 食物繊維を消化し短鎖脂肪酸を産生
3. ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンK、葉酸、パントテン酸、ビオチンなどのビタミン類の生成
4. ドーパミンやセロトニンを合成
5. 腸内細菌と腸粘膜細胞とで免疫力の約70%を生成
プロバイオティクス:酪酸菌や乳酸菌を直接食物から摂取するという方法と
プレバイオティクス:酪酸菌の増殖を促進する食材を摂取するという方法とがあります。
「睡眠障害」
不眠症
入眠困難、中途覚醒・早朝覚醒
過眠症
ナルコレプシー(原発性)、睡眠時無呼吸症
随伴症
Non Rem睡眠時:遊行症(夢遊病)、夜驚症、夜尿症、歯ぎしり
Rem睡眠時:行動障害、睡眠麻痺(金縛り)、悪夢、寝言
むずむず脚症候群
睡眠は、心身の休息、身体の細胞レベルにおける修復、さらに、記憶の再構成など高次脳機能にも深く関わっています。
睡眠中、下垂体より、2-3時間間隔で「成長ホルモン」が分泌されています。
従って、子供の成長、創傷治癒、肌の新陳代謝 などは睡眠時に促進されます。
ことわざ:寝る子は育つ、果報は寝て待て、寝る間も惜しんで、寝食を忘れる
「睡眠療法」
睡眠:7-8時間 が一般成人にて、最も健康・長寿に至ります。
熟睡(Sleep Stage 3.4)するには、規則正しい生活(特に起床時間)、起床後に日光浴、就寝前1-2時間前に入浴、寝室環境は暗く静かなことが望まれます。
昼寝: 13-15時、15-30分 が Best ! それ以上眠ると睡眠が深くなり夜間不眠を生じるからです。
「概日リズム circadian rhythm」
・起床時間は土日も一定、朝起きたら日光浴 ☼
・朝食で Break fast ! 通勤で歩き軽い有酸素運動・約30分!
・15-30分の昼寝は午後の業務効率Up! 直前カフェイン摂取☕
・運動は交感神経の亢進する夕方が Best! 入浴は就寝2時間前ぬるま湯 カフェイン・ブルーライトは避け、暖色・間接照明💡
「体内時計を整える12ヶ条」
重要なことは体内時計は「太陽の光」により毎日リセットされています
したがって、
1. 早寝早起すること
2. 朝日を浴びて身体を動かすこと
3. 夕方は心も体も休めること
心がけましょう!
「不安 anxiety」
対処が困難な際に抱く、漠然とした恐れの感情、「恐怖fear」に比べ、対象が不明瞭。
仏語では「精神的な不安 anxiete」と「身体的な苦悶 angoisse」を使い分けます。
生きている限り避け難い「老病死」への恐れは「正常な不安」。
政治・経済・宗教など諸々の問題に対し「現不安、現実不安」。
「病的な不安」とは、刺激が主体の内部で歪曲・肥大するため、客観的危険に比べ、不相応に強く反復します。
「神経症的な防衛機制」を生ずるため「神経症的不安」とも呼びます。
「全般性不安」とは、認知機能低下・自律神経症状を前景とする慢性の不安。
「パニック発作」は、切迫・破局感、激しい自律神経症状を伴う急性の不安。
「戦慄 trema」とは、統合失調症の初期に「妄想気分」と併せて生ずる不安。
「瞑想 meditation」
心を静めて無心になったり、心を静め神に祈ったりすること
基本的に目を閉じ、静かに深く想いを巡らす
日常生活の諸問題の整理や見直し、再活性化を意図し、日常の時間の中に、一定の時間を区切り、通常とは違う意識状態へ、自覚的に切り替えること(葛西賢太2011)
変性意識状態 Altered State of Consciousness, ASC. 宇宙との一体感、全知全能感、強い至福感などを伴う、強烈な際は、その人の価値観・人生観・世界観を変革させる時もある(Arnold M. Ludwig1966)
- 調身・調息・調心:背筋を伸ばす、腹式呼吸(呼気を伸ばす)
- 心に浮かんでくる、あらゆることを「あるがまま」に受け入れる
- 瞑想終了後(15-30分以上)「あるがまま」の自分を「記録する」
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「パニック発作 への対処方法」
パニック発作は誘因の有無に関わらず、突然生じ、10分程でピークとなり、60分程で治まります。しかし、不安・焦燥・恐怖に加え、動悸・呼吸困難・手足の痺れ、意識朦朧など、「死んでしまうのではないか」という程の苦痛を伴うため、「脳神経の異常興奮」による疾患と思えず、救急搬送されることも少なくありません。
それでも二度目・三度目となると「予期不安」という「また起きるのではないか」という不安にとらわれるため、再発予防を行うことが有用です。
そこで予防薬を服用するのも重要ですが、薬に頼るばかりでなく、下記のような「認知行動療法」も試してみましょう!
- 深呼吸・腹式呼吸を繰り返す
- その場から離れ(特に人混み)歩き回る
- 脈拍を数えつつ、自分が不安状態にあることを自覚する
- 落ち着いてきたら、何か「誘因」はなかったか振り返る
- 認知療法や森田療法などの理論を思い出し自分の疾患を客観視する
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“PTSD. Post Traumatic Stress Disorder”
生命の安全が脅かされるような Trauma(戦争、天災、事故、犯罪、虐待など)により強い精神的衝撃を受けることが原因となり、著しい苦痛や、生活機能の障害をもたらしているストレス障害。症状がまだ1か月を経ていないものは急性ストレス障害として区別します。
Trauma から6ヵ月以内発症、1ヶ月以上持続
・精神的不安定による不安、不眠などの過覚醒症状
・トラウマの原因になった障害・関連する事物に対しての回避傾向
・事故・事件・犯罪の目撃体験等の一部や全体に関わる追体験(フラッシュバック)
Complex PTSD
組織的暴力、家庭内暴力、児童虐待など長期・反復的なトラウマの後に生ずる感情などの調整困難を伴う(PTSD)
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「Trauma & Flashback への 対処方法」
暴露療法 Exposure Therapy. ET
不安や恐怖の原因になる刺激や状況へ段階的に「敢えて慣らす」ことで不安反応を消していく 方法。イメージを用いる方法と現実場面を用いる方法の二つあります。
マインドフルネス認知療法
感情や思考に従ったり、価値判断をするのではなく、感情や思考から「一歩離れ観察する」と いう、マインドフルネス技法を取り入れ、否定的な認知・行動を繰り返さないようにすることにより、不安やうつを防ぎます。
Acceptance and commitment therapy. ACT
Accept your reactions and be present
自らの反応に気づき、今この瞬間とつながろう
Choose a valued direction
価値づけられた選択をしよう
Take action
行動しよう
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「弁証法的行動療法 Dialectical Behavior Therapy. DBT」
「弁証法」とは、哲学において真理に到達することを目的として提唱された方法
正・反・合 または 定立・反定立・総合 という三段階
「いまこの瞬間の行動受容と行動化の強調」
「患者と治療者、双方の治療妨害行為の取り扱い強調」
「治療に必要な治療関係の強調」
「弁証法的プロセスの強調」
「変化させること」「変化させず受容すること」のバランスが重要です。
「受容」に重きを置いた考えは、東洋と西洋の瞑想法(禅など)の思想に由来します。
また治療者と患者の関係、患者同士の関係の重要性を強調しています。
マインドフルネス・スキル
注意深くあること、理知的および感情的な心のバランスをとり 「賢い心」に至る
対人関係保持スキル
人間関係に留意、優先順位・生活や人間関係で要求されることのバランス、
したいこと・しなければならないことの統御力と自尊心を養成
感情抑制スキル
いまある感情を観察・描写、感情の性質・メカニズムを理解
ネガティブな感情を減少、ポジティブな感情を増加
苦悩耐性スキル
短期間の苦悩に耐えるための「危機を乗り越えるストラテジー」
長期間の苦悩に耐えるための「現実を受け入れるためのガイドライン」
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“Mindfulness Skills”
「現在の体験へ注意を向ける心理過程」
「いまこの瞬間の体験を意図的に意識し、評価せず、とらわれず、ただ観察すること」
「理性的な心」と「感情的な心」へ関与し、バランスをとり「賢い心」に到達する手段です。
「理性的な心」は「感情的な心」により乱されるため、両者を統合し「賢い心」を身に付けます。
1. 把握スキル (what skill)
観察する、描写する、関与する/自分の行動を客観的に意識するため
2. 対処スキル (how skill)
断定(判断)しない、ひとつに集中する、効果的であること
「座禅儀」調身・調息・調心
臍腹を寛放し、一切の善意すべて思量することなかれ。念起こらば即ち覚せよ。これを覚すれば即ち失す。
久々にして縁を忘ずれば自ずから一片となる。これ坐禅の要術なり
現代語訳
身も心も解放し、腹の中になんの一物もなく、ゆったりと解放した上で
是非善悪など、相対的「想念」を払い去った、「無念無想」になります
しかし、人間は簡単に「無念無想」「無心」になれません
そこで「妄念」を生じたら「省覚」することにより「妄念」は消えます
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「対人関係保持 Skills / DBT”
1. 自分の望みをかなえる
“DEAR MAN”
Describe(状況を客観的に描写する)
Express(状況についての意見をはっきり表現する)
Assert(相手に行動をおこさせるために、要望を主張する)
Reinforce(行動が良い結末をもたらすことの強調)
stay Mindful(心の動きに集中させた状態を保つ)
Appear confident(自信に満ちていることを示す)
Negotiate(自分と他人の要求に折り合いをつけるために交渉する)
2.対人関係を保持する
“GIVE”
be Gentle(穏やかで節度のある態度を心がける)
act Interested(相手に関心を持っているように振舞う)
Validate(相手を肯定する)
use an Easy manner(和やかな態度を示す)
3.自尊心を保つ
“FAST”
be Fair(公正であること)
no Apologies(むやみやたらに謝罪しない)
Stick to values(自分自身の価値観を守る)
be Truthful(誠実であること)
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「感情抑制 Skills / DBT”
1. いまある感情を観察する
2. その感情を描写する
3. 感情の性質を理解する
4. 感情のメカニズムを理解する
5. ネガティブな感情を減少させていく
6. ポジティブな感情を増加させる
ネガティブな感情を減少させる(PLEASE MASTER)
1. treat PhysicaL illness(身体疾患の治療)身体疾患に罹患していると否定的感情に対する抵抗が弱まります。
2. balance Eating(バランスのとれた食事)多過ぎず、少な過ぎず、気分の良くなる食べ物・悪くなる食べ物について話し合いましょう。
3. avoid mood-Altering drugs(気分を変動させる薬物を避ける)アルコールや薬物も否定的な感情に対する抵抗を弱めます。
4. balance Sleep(適度な睡眠)自分が気分良くいられるだけのほどよい睡眠を心がける。
5. get Exercise(運動する)適度な運動。有酸素運動は抗うつ作用をもたらします。
6. build MASTERy(統御力を養う)自信と能力を高めましょう。
ポジティブな感情を増加させる
1. ポジティブな経験を積み重ねる:短期的に好きなこと楽しいことを、長期的に目標を作り努力しましょう
2. ポジティブな経験に心を向ける:起こった良い出来事のほうに目を向けるようにしましょう。
3. 心配事に気をとめない:今の幸運はいつか終わると考えない、自分は幸せになる価値があるのかと考えないこと。
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「苦悩耐性 Skills / DBT”
危機を乗り越えるストラテジー
気をそらす
Wise Mind ACCEPTS(賢い心で気をそらす)
Activities(とにかく活動する)掃除。散歩やイベント。ノンカフェインのコーヒーや紅茶。ゲーム。
Contributing(何かに貢献する)ボランティア。
Comparisons(自分より苦しい立場にいる人と比較する)自分より不運な人と比較。災害や人の苦難のニュース。メロドラマ。
opposite Emotions(正反対の感情を生み出す)感動的な本。恐怖映画。古い手紙を読み返す。
Pushing away(しばらく放っておく)しばらく考えることを止め気持ちを放り出す。
other Thoughts(他のことを考える)10秒間数える。テレビや雑誌を見る。パズルをする。
intense other Sensations(他の激しい感覚を起こさせる)手に氷を握る。ゴムバンドを巻き引っ張り離す。ゴムボールを強く握る。
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「苦悩耐性 Skills / DBT”「
危機を乗り越えるストラテジー
自分を落ち着かせる
視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚の全てにおいて感覚を鎮めリラックスしましょう。
1. 視覚:部屋に花を置く、映画や舞台を見に行く、海や山へ行く、絵画を見るなど
2. 聴覚:美しい音楽または激しい音楽を聴く、自然の音に注意を向けるなど
3. 臭覚:香水をつける、アロマを炊く、森林浴を行うなど
4. 味覚:健康的な食事を摂る、よく味わいながら食べる、ハーブティーなど
5. 触覚:お風呂に入る、恋人と過ごす、犬や猫と遊ぶ、ソファやベッドでくつろぐなど
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「苦悩耐性 Skills / DBT”
危機を乗り越えるストラテジー
今この瞬間を好転させる
キーワードは“IMPROVE”
1. Imagery(イメージする)安全・安心な場所に行き、将来、自分は報われることをイメージする
2. Meaning(苦悩に意味付けをする)苦悩に価値、意味を見つける、可能な限りポジティブな側面を見出す
3. Prayer (祈る)神や仏のような全知全能な存在をイメージし、自らを委ね、祈る
4. Relaxation(身体をリラックスさせる)心身をリラックスさせることで心身のコントロールをする
5. One thing at a time(一度に1つのことをする)マインドフルネス・把握スキルその2と同じ
6. a brief Vacation (短い休暇や休憩をとる)15分間昼寝する、1週間休暇を取るなど
7. Encouragement (自分を励ます)「いつかは終わる」、「私ならできる」など自分に言い聞かせる
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「うつ depression”
“de: 下へ press : 押す”抑うつ気分、意欲低下、思考・運動抑制、希死念慮など生じます。
「うつ病」(単極性・双極性、外因性・内因性・心因性など)により主に生じます。
「うつ状態」とは、うつ病とは診断確定する前のうつ状態・全般を説明します。
「引越うつ、荷下ろしうつ、根こそぎうつ、消耗うつ、実存うつ、喪失うつ、警告うつ、産後うつ、二次うつ、精神病後うつ、卒中後うつ」など多々あります。
なお、「うつ」と「抑うつ」とは相違ありません。
ただ、「鬱」や「抑鬱」と表記すると「重症」と感じるのは筆者のみではないでしょう。
「がん」「癌」「悪性腫瘍」という表記の相違と類似した言葉遣いとも考えております。
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「非定型うつ atypical depression”
「過眠・過食、鉛様の麻痺 = 体が鉛様に重く感じられる症状“leaden paralysis”、拒絶への過敏さ」を特徴とします。
典型的うつ病の場合、不眠、食欲不振、精神運動抑制を呈しますので、丁度、逆の様な状態です。
「若い女性」「敏感・繊細」な性格の方々に多いため、本人は具合が悪いのに、周囲からは病気ではなく性格ではないかと軽視されがちです。
「躁鬱病」「境界性人格障害」との合併、Soft bipolar spectrum”の6-7割、「パニック障害」の併発も指摘されています。
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「激越型うつ」
「非常に強い不安」と「落ち着きのなさ」を示すうつ状態、うつ病の主徴である抑制を認めません。
一時も落ち着かず、ソワソワとし、椅子に座ったり立ったりし、部屋をウロウロ歩き回り、あるいは逆に「体が動かない」と唐突に横になります。
手をモゾモゾと動かし、髪の毛や服などをずっといじります。
そして、嘆息しながら苦悶様の表情で強い絶望感、罪業感、心気的な訴えなどを繰り返します。
訴えが妄想的となり「精神病性うつ病」へ移行する場合もあります。苦悩感が強い上に衝動性、いわゆる「激越発作」を生じることあり、自殺企図に注意しなければなりません。高齢女性に比較的多く、しばしば「退行期うつ病」の重複が議論となります。
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「うつ病の妄想」
「重症うつ病」において妄想を伴うことがあります。
「微小妄想群」として、自己の価値や能力を低いと確信する妄想が主となります。
「貧困妄想」:財産を失ったと確信する妄想
「罪業妄想」:重大な過失を犯したと確信する妄想
「心気妄想」:健康を害したと確信する妄想
「疾病妄想」:稀な重い病に罹ったと確信する妄想
「否定妄想」:自分の身体や存在、生死を否定する妄想
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「躁 mania”
「気分高揚」と「意欲増進」を主徴とする、観念奔逸、刺激性、転導性、抑制欠如、逸脱行為等。
「爽快」という「躁」は少なく「鬱」との「混合状態」や「易怒性・易刺激性」が多いです。
少なくとも1週間以上継続、入院を要する場合も少なくなくありません(双極Ⅰ型)。
「軽躁」とは軽い躁、病初期や鬱病の回復期にも生じます。4日以内、入院を要しません(双極Ⅱ型)。
「躁的防衛」とは抑鬱状態に、依存対象を失う喪失感の防衛、現実否認、依存欲求を満たします。
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「躁うつ病」と「うつ病」の「病前性格」
「マニー親和型性格」 :秩序に抵抗、気まぐれ、大胆、外向性を示す病前性格。
「メランコリー親和型性格」:秩序を遵守、良心的、他者へ尽くす病前性格。
分裂気質 :細長型 、静か、控えめ、真面目、(敏感性と鈍感性)
躁うつ気質:肥満型 、社交的、親切、温厚、(循環気質)
粘着気質 :闘士型(筋骨型)、几帳面、熱中・興奮、頑固 (Ernst Kretschmer. 1888-1964)
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「躁病の妄想」
「躁病(双極Ⅰ型障害)」では妄想を伴うことがあります。
「誇大妄想群」として自分の能力や価値を過大評価します。
「血統妄想」:高貴な家柄の生まれであると確信する妄想
「恋愛妄想」:特定の(特に有名・高貴な)人物から愛されていると確信する妄想
「発明妄想」:世界的な発見・発明をしたと確信する妄想
「宗教妄想」:天命を授かり、選ばれた者であると確信する妄想
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「妄想 delusion”
思考内容の障害、主に自分に関連した病的に誤った確信。
患者は自分に関した事実無根の内容を主観的に固く信じ、周囲が説得しても訂正不能です。
患者の信じている内容に感情移入、出来事を追体験して、「あのように思うのも無理はない」と了解できる場合「妄想様観念」といいます。
どうしても、了解できない場合「真性妄想」といいます。統合失調症の妄想は「真性妄想」に相当します。
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「想像 imagination”
現実にないことを考えること。
「表象(直観的に浮かぶ感覚的な心象)」を作る心の働き、あるいは表象そのものを想像する能力を「想像力」といい、Kantはこれを多様な直観を統合し「感性」と「悟性」を結ぶ 根本能力を意味すると考えました。
「空想 fantasy”
追想を改変したり追加したりして、非現実的な視覚表象を作り出すこと。
患者自身が登場し、日常の出来事を取り込み、将来の不安(自分や家族の病気・事故・死去)または夢を実現させるような内容(成功、活躍、賞賛など)であることが多いです。
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「空想虚言 pseudologica phantastica (L)”
架空の出来事を真実のように語り、他人も自分も「欺く」症候群(Delbruck 1891年)。
規模の大きい空想・妄想の場合は「空想妄想病」「空想パラフレニー」等と呼称されます。
空想者の多くは、虚栄心と自己暗示が強く、過去・現在の不幸な境遇から憧れの境遇(空想)へ逃避するため、現実と空想の入り混じった言動は周囲を混乱に陥れることがあります。
「空想人」→→→「空想虚言者」→→→「欺瞞者」
病前性格:発揚・顕示型、演技性・自己愛性、比較的・高知能
発病機序:ある程度「真実」に基づくが、空想虚言は「自己拡大」する(自分を大きく見せるため)、他人を喜ばせることに満足するため(エンターテイナー)、聞き手の反応にて「エスカレート」する。しかし矛盾を指摘されるとあっさりと偽りを認める。欺くことより語ることが目的のようである。
「嘘のための嘘」「虚即実、実即虚」「虚実ないまぜ」
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“Munchhausen syndrome”
患者が創傷を故意に生じたり疾病に敢えて罹患する精神障害。
母親が子どもの病気を捏造する場合は「代理Munchhausen症候群」と呼称。
DSMでは虚偽性障害において最重症とされています。
1951年、Asherが「ほらふき男爵の冒険」で有名な18世紀に実在した“Baron von Munchhausen バロン フォン ミュンヒハウゼン”の名を冠し命名しました。
主症状:空想虚言、遍歴(放浪)、再発の繰り返し
副症状:境界性・反社会性人格障害、(小児期)愛着遮断障害、平静な⇔演技的な態度
医学に関する知識、複数回の入院・治療歴
自験例:地域のICUにて不明熱を繰り返していた30代の女性、ある時、点滴に自分の唾液を混入しているところを看護師が発見。何か精神的な問題があるのだろうと本人へ優しく問いかけ、精神科へ転科。定期的・長期間の面接を重ね、幼少期からいつも1歳下の妹に母の愛情を奪われてきたという寂しさが吐露されました。
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「知覚 perception”
個体が感覚器を介し、外部や自分の状態を知ること、情意、記憶、思考など、ある程度のまとまり
「感覚 sensation”
知覚から記憶・思考などを除いた、単純な機能、感覚能は知性に対する感性、感受性は感じやすさ
「感覚過敏 hyperesthesia”
刺激を本来より強く感じること、自閉症、統合失調症・初期、覚醒剤精神病など。
「感覚鈍麻 hypoesthesia”
刺激を本来より弱く感じること。うつ病、せん妄など
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「錯覚 illusion」
対象を誤り「知覚」すること、軽い意識障害、不注意など。
「知覚変容 sensory distortion”
対象がいつもと異なり感じられる主観的体験、離人症にて「景色がモノトーンに見えたり」、統合失調症にて「目に入るものがギラギラした原色に映る」「音が耳に突き刺さる」など。統合失調症初期、高機能自閉症にて「自分が変わってしまった」という妄想気分に近い訴え。
「既視感 deja vu”
初めて見る光景にもかかわらず、過去既に見たことがあると感じること。
「未視感 jamais vu”
よく見て知っている物事を初めてのように感じること、統合失調症、離人症など。
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「幻覚 hallucination”
感覚器が刺激されていないのに「知覚」を生ずる病的体験。「対象なき知覚」。
感覚・客観・実体・外部性を特徴とします。
光・音など単純な「要素幻覚」/声・姿など複雑な「有形幻覚」。
幻視、幻聴、幻味、幻臭、幻触など。
幻視:意識障害やレビー小体型認知症に多く生じます。
幻聴:統合失調症に多く、自分の考えが声になり聴こえることを「考想化声」と呼びます。
幻味・幻臭:不快な内容が多く「被害妄想」を伴いやすいです。幻臭の一種に「自己臭恐怖」があり、思春期に生じやすいです。
幻触:身体表面の幻覚から「体感幻覚」という奇妙で異常な幻覚を執拗に訴える幻覚まで…例えば「脳がドロドロに崩れている」「腸がグルグルねじれている」
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「統合失調症 schizophrenia”
「青年期」発症。幻覚・妄想、自我障害などの陽性症状、無為・自閉、感情鈍麻などの陰性症状、さらに、注意・集中・記憶力の低下などの認知機能障害と多彩な症状が生じます。「中高年期」に「認知症」に類似した状態を呈することもあります。有病率:約0.8%.
かつてKraepelinが「早発性痴呆」と呼称し、Bleulerは「精神分裂病」としました。
日本では2002年に「統合失調症」と変更されました。
Bleulerの基本症状
連合弛緩、感情鈍麻、両価性、自閉
Minkowskiの基本障害
患者が現実との生きた接触を失った自閉状態
Schneiderの一級症状
三種の言語幻聴(考想化声、行為批評、問いかけと応答)
妄想知覚、自我障害(させられ体験)
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“DUP. Duration of Untreated Psychosis”
精神病未治療期間、陽性症状を生じてから治療が開始されるまでDUPが長いと予後不良、短いと良好であるため、早期治療・早期介入が望まれます。
前駆期 (Prodromal Stage) : First Episode に先行する時期、ただし「後方視的」な概念です。
ARMS. At Risk Mental State(精神病発症危険状態):「前方視的」な概念であり、発症予防が期待される、下記 UHR も同状態を示しています。
UHR. Ultra High Risk:1. 閾値以下の弱い精神病症状 2. 一過性で自然軽快する精神病症状 3. 遺伝的素因に機能低下を伴います。
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「治療臨界期 critical period”
顕在発症(陽性症状のはじまり)から有効な治療開始まで「2-5年間」は長期予後改善のための「治療臨界期 critical period」と考えられています。この期間に治療開始することで、社会機能の悪化を抑制し、本人の自殺や再発、家族への心理社会的負担なども軽減されると 期待されています。
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“OTP. Optimal Treatment Project”
至適な地域における包括的アプローチ(治療実施計画)Falloon, I. R. H.
サービスモデル
1. 早期介入(早期発見・支援)
2. 多職種チーム
3. 継続的アセスメント
4. アウトリーチ
5. 双方向性・心理教育
治療プログラム
1. 地域に適した薬物療法
2. ストレスマネジメント
3. 認知行動療法
4. 就労支援
地域で展開する精神医療・保健福祉サービスに求められる4つのA
1. Accessibility(利便性)
近くにあり、直ぐ通え、短時間で十分なサービスを得られること
2. Acceptability(受容性)
抵抗なく利用でき、費用と同等以上のサービスを得られること
3. Accountability(説明責任性)
サービスは科学的根拠に基づき、スタッフの技量も保証されていること
4. Adaptability(適応性)
様々な障害や時代・地域などの変化に適応していかれること
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「躁うつ病の分類」
躁うつ病:一次障害:双極Ⅰ型、双極Ⅱ型、気分循環症
二次障害:月経前不快気分障害、物質・薬物誘発性気分障害、身体疾患による気分障害
うつ病:一次障害:大うつ病、持続性抑うつ障害、重篤気分調節症
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「躁うつ病の分類」
正常な気分の波<気分循環気質<気分循環症<双極Ⅱ型<単極躁病<双極Ⅰ型
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・躁転の可能性 1.若年発症 2.家族歴 3.精神病症状
・2回目の病相2-5年年後、しかし次第に間隔短縮、5回目から1年以内に繰り返し…
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生物学的治療
抗うつ薬
抗精神病薬
気分安定薬
電気痙攣療法
磁気刺激療法
心理学的治療
短期認知行動療法
定型認知行動療法
対人関係療法
Mindfulness
Acceptance & Commitment
Schema療法
社会学的治療
家族心理教育
家族・友人
支持集団
地域集団
世話人
雇用
住居
LifeStyle治療
睡眠
食事
運動
禁煙
断酒
違法薬物の禁止
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「躁うつ病」の治療目標
・「寛解」服薬継続しつつも、おおむね症状消失している状態が一定期間継続していること
「治癒」や「完治」「根治」といった無理を求めないこと
・「躁」状態を抑制し、周囲・本人への影響を最小限に止める(特にⅠ型)
・「鬱」状態の苦痛を緩和、特に「自殺」を防ぐ
・「低目安定」が丁度よい、「一歩、下がる、状況から距離を置く、自分を客観視する」
「出る杭は打たれる、能ある鷹は爪を隠す、大智は愚の如し、深い河は静かに流れる」
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「自閉症スペクトラム障害」とは
・社会的コミュニケーションの障害と限定された興味の二つを満たす(DSM-5)
・有病率0.65-1% 男児:女児=4:1 遺伝率90%
・AQ. Autism-Spectrum Quotient. Screening test. (Simon Baron Cohen)
・極端に発達した男性脳(同上)
・Newton, Einsteinも明らかに自閉症と考えられる特徴を示していたが、
才能を開花させる場所を持っていたので障害と診断されなかった(同上)
・Savan syndrome. 知的障害や自閉症者が優れた能力を示すこと、記憶、計算、芸術など
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「自閉症スペクトラム障害」の歴史
1933年、Harry Stack Sullivan「精神病質の幼児」
1943年、Leo Kanner「自閉的な早期幼児」
1944年、Hans Asperger「自閉的精神病質」第二次世界大戦・敗戦国にて注目されず
1981年、Lorna Wing “Asperger syndrome” 紹介
2013年、DSM-5「自閉症スペクトラム障害」として包括
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「注意欠如・多動症」とは
・不注意・多動性・衝動性(女児は不注意のみが多い)
・有病率 子ども5%、成人2.5% 男女比 子ども2:1、成人1.6:1 遺伝率76%
・大脳基底核の機能不全→衝動性の抑制→Working Memory Training
・ADHD家庭は親子トラブル約3倍、ADHD児は怪我や留年が多い、学級崩壊を生じやすい
・インターネット依存を生じやすい、非行化・犯罪化をしやすい
・Gifted Children が誤診されている可能性/知情意の不均衡
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「注意欠如・多動症」の歴史
1775年、ドイツ人医師が「不注意」について教科書に記載
1950年代、脳微細機能障害(MBD. Minimal Brain Dysfunction)
1937年、Charles Bradley, “Amphetamine”による劇的な効果を発見
1954年、“Methylphenidate”発売により、頻繁に処方
2003年、日本における「片付けられない女たち」によるADHD第一次ブーム
2013年、ADHD第二次ブーム/ストラテラ成人適応追加など
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「神経発達症への援助」
偏見の軽減
↓
早期発見
早期介入
1. 援助希求
2. アウトリーチ
↓
精神保健の啓発
治療への積極的態度
↓
精神保健福祉の適切な利用
↓
長期予後:早期回復、生産性の向上、休職期間の短縮
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TEACCHプログラム
Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Children
・米ノースカロライナ州で1972年以来行われている自閉症スペクトラム障害・当事者とその家族を対象とした生涯支援プログラム
・幼児から成人まで、生涯を地域で生活するための長期的・体系的プログラム
・自閉症の人々の行動を文化の一つとして理解する
・専門家の支援と同等以上に、家族への療育が期待される
・予測不能が苦手である自閉症者に対し、整理・構造化された環境を提供する
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「依存症 dependence”
「快楽」を生じる物質の摂取や行為の反復などの結果、これらを求める耐え難い欲求を生じ、これらを追い求め、これらがないと不快感を生じる状態
物質依存:アルコール、ニコチン、薬物など
行為依存:ギャンブル、セックス、買物など
関係依存:ある人物に必要とされること
心理学的症状
異常な執着、否認、衝動性、行為の強化
生物学的症状
依存・耐性、離脱症状
関連用語
乱用、嗜癖、中毒、Adult Children (AC), Enabler(共依存)
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「依存症の脳科学」
前頭葉の機能低下
→衝動性の抑制困難
→依存物質・行為の抑制困難
Dopamine signals の過活性
→「快楽」を生じる脳内神経伝達物質を得る物質や行為への依存
認知行動療法
→前頭前野の機能向上
→衝動性の抑制向上
→依存物質・行為の抑制向上
各種薬剤
→Dopamine signalsの鎮静
→「快楽」を生じる脳内神経伝達物質を得る物質や行為への依存を抑制
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「依存症の心理・社会学」
家族歴
アルコール依存、気分障害はじめ両親・同胞等に同症等に罹患する者が認められることあり、およびそのような家庭環境で育ったことが様々な心理的葛藤・外傷をもたらす(AC. Adult Children)
発達歴
注意欠如多動症、中枢神経刺激薬が治療作用をもたらす場合もある
教育歴
上記と相まって、高等教育を受けられないことが多い
職業歴
職業不定者がアルコールや薬物に依存し、現実逃避する例が多い
一方、ワーカホリズムが、更に業績を伸ばすために中枢神経刺激薬を用いたり、逆にリラックスするためにアルコールに依存したりする場合もある
婚姻歴
大量飲酒や薬物乱用し、性交渉に及び、結婚・離婚を繰り返す
犯罪歴
不法薬物所持、そして薬物による二次的犯行
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「依存症の治療は難しいと、一般的に考えられている」
- 「病識」があっても「否認」をするため
- 背景に、発達障害や気分障害など複数の精神疾患を抱えているため
家族歴・生活歴より教育やPersonalityに偏りを生じていることがあるため
特に、反社会・境界性Personalityの場合、非行や犯罪を生ずることがあるため - 違法薬物の供給源として反社会的勢力、アルコールやニコチンならば政府が関与しているため
依存性薬物の最たるは医療機関からのBenzodiazepineと考えられているため - 「寛解」と「再発」SLIP. Sobriety Loses Its Priorityを繰り返すと考えられているため
「底付き体験」や「愛の鞭」が必要と考えられているため - 「認知行動療法」「家族教育」「自助グループ」が効果的と考えられているため
「12のステップ」
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「物質依存」とは
「物質依存」とは、依存物質を心身に重大な障害を引き起こすほど使用して、物質へ依存・耐性・離脱などの問題が生じている精神疾患である。物質は「違法薬物」のみでなく「アルコール・タバコ」、さらに「カフェイン・炭水化物」などの飲食物、更に「医薬品(特に向精神薬)」も含まれています。
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Amphetamine
・1887年、ルーマニアの化学者ラザル・エデレアーヌが、ベルリン大学で初めて合成。
・ノルアドレナリン・ドーパミンの放出促進と再取り込み阻害による(セロトニンには作用しない)中枢神経刺激作用。戦中は軍隊にて、戦後は芸術家が用いたと言 いいます。
・しかし、強い依存・耐性および幻覚・妄想、興奮を生ずる可能性あり。日本では、1951年、覚醒剤取締法にて禁止薬物と認定。
Methamphetamine
・1888年、日本の薬学者・長井長義が合成、1893年、発表。1919年、緒方章が結晶化に成功。
・Amphetamineの窒素原子上にメチル基が置換した構造の有機化合物。Amphetamineよりも中枢神経刺激作用は強く、やはり戦前より軍隊、戦闘機の操縦士(特に終戦直前の特攻隊員)が服用させられ、戦後は商品名「ヒロポン」にて乱用され、中毒者が数多く生じました。
・現在も治療薬として残っているが、実質上、処方禁止。
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Alcohol dependence
- 未治療率:約80%(WHO)、日本国内では啓発活動ほとんどなし、酒税との利益相反?
2021年酒課税見込11760億円(財務省)2012年Alcoholによる社会的損失4兆1483億円(厚労省) - 習慣飲酒→酒量増加→依存耐性→“Black Out”(飲酒前後の健忘)→高脂血症・肝機能障害→肝硬変→食道静脈瘤の破裂/または肝臓癌・膵臓癌の発病/アルコール性精神病・認知症…
- “Black Out”病的酩酊の時点で少なくとも「断酒」すべきですが、たいてい「否認」されます。
問題はAlcoholまたは飲み方であり、自分自身ではないという「責任回避」の心理でしょう。 - 自分の健康は自己責任かもしれませんが、仕事や家庭は他者を巻き込むため、最終的に「底を突く」か「酒を止める」かの二者択一となります。
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Nicotine dependence
喫煙者の約7割がNicotine依存症(約4割が無自覚)。その過半数は将来、肺癌になる可能性が高いと自覚していますが、Nicotineの強い依存性ゆえ、禁煙に失敗しているそうです。心臓虚血発作を起こした医師さえ困難で、その半数しか禁煙できなかった記録があります。
2021年たばこ課税見込9120億円(財務省)1985-2005年喫煙による経済損失4兆3300億円(厚労省)
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「摂食障害」の精神病理
ボティイメージの障害
・思春期・神経発達・ホルモン・ストレス・文化的因子
ダイエット
複数の遺伝子
・人格・認知特性、強迫傾向、完全主義、損害回避、痩せ願望、体内感覚(空腹感・満腹感の低下)
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「物質依存の悪循環」
Risk Factors
・幼少期に攻撃的な性格
・社会的スキルに乏しい
・学校で薬物を使用できてしまう
・両親の管理不十分
・薬物の体験
・地域の貧困
Protective Factors
・自分を抑制できる
・友人関係を築けている
・学校が薬物を排除している
・両親の管理と支持
・学業成績が優秀
・近所づきあいが豊か
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「物質依存に対する予防教育」
・啓発(教育)
・早期介入
・否認への対処(動機づけ面接)
・評価(診断)
・解毒(治療)
薬物療法
心理療法:個人・集団
心理教育(情報提供)
家族療法
・生活支援
住居、職業、教育など
・経過観察
訪問看護
居宅介護など
・啓発:精神保健の成り立つ環境整備およびその継続
・予防:未成年者が飲酒のような問題に陥らないようリスク軽減
・治療:物質依存または行為依存などに診断された方々へ
・回復:地域において生産的・禁欲的な生活を送っている方々へ
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「行動嗜癖の診断基準案」
1. ある行動(多くは非適応的、非建設的な行動)を行わずにはおれない抑えがたい衝動
2. その行動を開始・終了するまで、他の事柄は目に入らず、自らの衝動をコントロールできない
3. その行動のため、それに代わる(適応的、建設的)楽しみを無視するようになり、当該行動に関わる時間や、当該行動からの回復(行動をやめること)に時間がかかる
4. 明らかに有害な結果が生じているにもかかわらず、その行動を続ける
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IAT : Internet Addiction Test
- 気がつくと思っていたより、長い時間インターネットをしていることがありますか?
- インターネットをする時間を増やすために、家庭での仕事や役割をおろそかにすることがありますか?
- 配偶者や友人と過ごすよりも、インターネットを選ぶことがありますか?
- インターネットで新しい仲間を作ることがありますか?
- インターネットをしている時間が長いと周りの人から文句を言われたことがありますか?
- インターネットをしている時間が長くて、学校の成績や学業に支障をきたすことがありますか?
- 他にやらなければならないことがあっても、まず先に電子メールをチェックすることがありますか?
- インターネットのために、仕事の能率や成果が下がったことがありますか?
- 人にインターネットで何をしているのか聞かれたとき防御的になったり、隠そうとしたことがどれくらいありますか?
- 日々の生活の心配事から心をそらすためにインターネットで心を静めることがありますか?
- 次にインターネットをするときのことを考えている自分に気がつくことがありますか?
- インターネットの無い生活は、退屈でむなしく、つまらないものだろうと恐ろしく思うことがありますか?
- インターネットをしている最中に誰かに邪魔をされると、いらいらしたり、怒ったり、大声を出したりすることがありますか?
- 睡眠時間をけずって、深夜までインターネットをすることがありますか?
- インターネットをしていないときでもインターネットのことばかり考えていたり、インターネットをしているところを空想したりすることがありますか?
- インターネットをしているとき「あと数分だけ」と言っている自分に気がつくことがありますか
- インターネットをする時間を減らそうとしても、できないことがありますか?
- インターネットをしていた時間の長さを隠そうとすることがありますか?
- 誰かと外出するより、インターネットを選ぶことがありますか?
- インターネットをしていないと憂うつになったり、いらいらしたりしても、再開すると嫌な気持ちが消えてしまうことがありますか?全くない(1点) まれにある(2点) ときどきある(3点) よくある(4点) いつもある(5点)【20~39点】平均的なオンライン・ユーザー 【40~69点】インターネットによる問題あり
【70~100点】インターネットが生活に重大な問題をもたらしているため、すぐ治療を受けましょう
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PGSI. Problem Gambling Severity Index
- どのくらいの頻度で、失っても本当に大丈夫な金額以上のお金を賭けましたか?
- どのくらいの頻度で、同じだけの興奮を得るため、それまでより多くの金額を賭けましたか?
- どのくらいの頻度で、負けた金額を取り返そうと、別の日に戻りましたか?
- どのくらいの頻度で、お金を得るために借金をしたり物を売ったりしたりしましたか?
- どのくらいの頻度で、自分が問題を抱えているかもしれないと感じましたか?
- どのくらいの頻度で、あたながそうだと思うかにかかわらず、周囲の人々があたながギャンブルをすることを批判したり、あなたが問題を抱えていると言ってきたりしましたか?
- どのくらいの頻度で、自分のやり方や結果として起こることに関し、悪いとか申し訳ないとか感じましたか?
- どのくらいの頻度で、健康問題を引き起こしましたか?これにはストレスや不安なども含みます。
- どのくらいの頻度で、家庭の金銭問題を生じましたか?全くない0点 時々1点 たいてい2点 いつも3点【1~2】低リスク 【3~7】中リスク 【8~】ギャンブル問題
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「性的行動嗜癖」
- 特定の性的行動を行いないたいという強迫的な欲求、とらわれ、ファンタジー
- 特定の性的行動を行ってはいけないと、止めたいと分かっていても、抵抗できない、その行動が否定的な結果(逮捕、解雇、離婚など)を招くとしても繰り返してしまう
- 特定の性的行動の増加、多くの時間や労力を要する(物質依存の「耐性」)
- 特定の性的行動は重大な心理・社会的問題を引き起こす
有病率3-10%、ほとんど男性、男性ホルモンの影響による
リスクアセスメント
- 青年(25歳未満)
- 親密なパートナーと同居歴なし
- 性犯罪以外の粗暴犯罪歴もあり
- 血縁のない被害者がいる
- 顔なじみのない被害者がいる
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「嗜癖治療における4本柱」
1. Harm Reduction
危害低減、本人および周囲の人々が嗜癖行動の危害から速やかに回避されるよう努力すること
2. Medication
薬物療法、行動嗜癖においても、有用な薬物があれば積極的に用いる
3. Psycho-Socio Therapy
認知行動療法、ストレスコーピング、治療共同体
感情調整・衝動制御・行動抑制/認知・思考訓練
4. Self Help Group
当事者による能動的な治療に優るものなし
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1. モラルモデル・刑事司法モデル
嗜癖は犯罪、対処=強い意志
2. 認知行動モデル
嗜癖は不適切な学習、対処=認知行動療法
3. スピリチュアル・モデル、12ステップ・モデル
嗜癖は罪、対処=自助グループ
4. 医療モデル、疾病モデル
嗜癖は病気、対処=治療
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